「もっと声に出して読みたい歌詞特集」のボーナス・トラックとして、また番組の中では1曲もかかっていない最後の大物=吉田拓郎の歌詞に注目してみたいと思います。
■吉田拓郎『元気です』
- 作詞:吉田拓郎
- 作曲:吉田拓郎
- 編曲:青山徹・大村雅朗
- 1980年11月5日発売
当時の吉田拓郎としては珍しい、自身による作詞。吉田拓郎と矢沢永吉という、広島を代表する長身男前の音楽家は、作詞よりも作曲&歌の人ということ。宮崎美子が主演したTBS系ポーラテレビ小説『元気です!』の主題歌。
歌は4番まであって、それぞれ「春」「夏」「秋」「冬」と割り当てられているのだが、中でも最後を飾る「冬」がいい。四季を超えて「冬」に旅立っていくという設定で、次のような歌詞が歌われる。これは声を出して読みたくなる。
「私も今」「船出の時」だけど、「言葉を選んで渡すより」「元気ですよと答えよう」。
お涙ちょうだいのウェットなメッセージではなく「元気です」の一言でいいじゃないか。まさに。未だにお涙ちょうだいの湿った歌詞が多い、Jポップのお別れソングに対する1980年からのアンチテーゼだ。
最後に老婆心ながら。この『元気です』という曲は、吉田拓郎のアルバム『元気です。』には収録されていない。アルバム『元気です。』は、シングル『元気です』の8年前=72年に発売されたもので、シングル『元気です』とは無関係なので要注意(クイーンの『Sheer Heart Attack』と同じ構造)。
■吉田拓郎『ビートルズが教えてくれた』
- 作詞:岡本おさみ
- 作曲:吉田拓郎
- 1973年6月1日発売
作詞は岡本おさみ。この人は、吉田拓郎が作曲し、1974年の日本レコード大賞に輝いた、森進一『襟裳岬』の作詞もした人で、言わば、70年代吉田拓郎の「田舎系歌詞」の担当。逆に「都会系歌詞」は喜多條忠(きたじょうまこと)ということになる。
この、アルバム『伽草子』(73年)の中の1曲は、当時の日本人によるビートルズ論として、非常に画期的だったと思う。
「ビートルズが教えてくれた」のは、「もっと陽気であっていいじゃないか」ということだったのではないか。この歌詞は、そう訴えている。
これは、当時の貧乏くさくて陰鬱な音楽家たちに対する、岡本おさみと吉田拓郎からの批判のようにも聴こえてくる。ビートルズは、(一見)陽気に快活にロックンロールを奏で、世界の若者を魅了したじゃないか。それに比べて、お前ら、何ウジウジやってるんだよと。
桑田佳祐はラジオで「吉田拓郎を聴いて、音楽で金を稼ぐって、すげぇいいなと思ったんです」と発言していた。日本にロックビジネスを確立させたのは、ビートルズと吉田拓郎と矢沢永吉だと思う。だから日本のリバプールは広島だ。
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